大学入学共通テストモデル問題から見る2020年入試改革②

〇大学入試よりも進んでいる!?高校入試、中学入試

 先のサンプル問題を見たときの私の第一印象、それは「最近の県立高校の入試問題」と似ているということでした。あるいは「公立中高一貫校の中学入試問題」とも類似しています。

 長い文章か条件を正確に把握し、問題のテーマを把握したうえで、数学の知識、考え方を利用する。このようなタイプの出題傾向では、すでに公立中、公立高の受験生にとってみればある種なじみのある問題と言えます。(厳密に言うと、公立と言っても地域によって出題傾向は大きく変わります。私が教壇に立っている千葉県の公立入試には確実に似ているということです)

 中学受験、高校受験の問題と類似した試験問題に大学入試が変わる…。そうだとすれば今回の大学入試改革は全く恐れるに足らないということになります。ところが、実際にはそう話は単純ではありません。ところ変われば品変わると言うように、一言で入試問題と言っても学校によってその出題傾向は大きく変わってきます。同じ高校受験でも公立高校と私立高校では全く問題のタイプが異なります。

 一般的に私立高校の入試問題ではマークシートが採用されている学校が多く、その結果答えを記述するのではなく選択させる問題がほとんどです。選択型の問題は、解の選択肢を選び出すことが重要であって、自らの考えを記述して説明する力は要求されません。悪い言い方をすれば、選択型の問題では本当に理解していなかったとしても、答えを選び出す“嗅覚”さえあれば、ある程度合格点は確保できるのです(それ故に、選択型の問題を解くためのテクニックなどというものも、学習塾によっては指導されているのが実情です)。

 私立高校が何故マークシートによる選択型の問題を出題しているか?もちろんこれは、受験生の“嗅覚”が見たいからではありません。多数の受験者の答案をわずか2~3日の間に採点をし、合否を出す、このような物理的、時間的な制約上そうせざるを得ないというのが本当のところでしょう。しかし、結果として選択型の問題を採用している以上は、子供たちの読解力か記述力を十分に判定できる試験になっているか?と言えば、残念ながらそれは難しいでしょう。

 実はセンター試験もこれと全く同じ問題点を抱えたテストであったと言えます(全国の大学受験者のほとんどが受験するわけですから、マークシートによる選択型の試験スタイルをとらざるを得ないのは止むを得ないでしょう)。その制約の中では十分に練られた良問を出題していたとは思いますが、今回の改革ではここにメスを入れ、真の意味での学力を問おうというわけです。

〇最良の入試問題は“小論文”である

 同じテーマの問題でも、出題方式によって受験者の問われる力が変わってくることはお伝えしました。一番シンプルに受験者の学力を総合的にはかる最良の入試問題はおそらく「論文形式」でしょう。何かのテーマについての論文を書くことは、受験者にとって

・テーマを正確に把握する“読解力”

・テーマについてその内容の背景をどれだけ理解しているか?という“知識量”

・文章によって自分の考えを説明する“記述力・説明力”

・他人の受け売りの意見でなく、自分自身の考えを述べる“独創性”

これら全ての力が一度に要求されます。

 理数系の教科においても論述形式の出題は可能でしょう。問題の解法を白い紙に論述させたり(現に、難関国立の数学入試問題はそうなっています)、一つの定理の証明をさせたりすることで単なる計算力だけでないトータルとしての学力も同時に見ることができるでしょう。

 ごく一部の先駆的な学校では伝統的にこのような論述形式の入試問題を出題しています。私の記憶に今でも残っているのが、かつて埼玉県の難関私立高校が出題した「割りばし問題」です。国語の試験開始とともに生徒に配られたのは割りばしと原稿用紙。問題はいたってシンプルなもので、「これについてあなたが考えることを自由に記述しなさい」というもの。

 なんてチャレンジングな問題でしょう。ただ、同じ教育に携わる私としてはこの学校が受験生に何を問いたいのか?受験生のどのような力を見たかったのか?ということは手に取るようにわかります。この入試問題を突破した生徒たちは間違いなく、バランスの取れた真の学力の持ち主であることは間違いないでしょう。

 これは極端な例ですが、受験生の本当の学力を見たいのであれば小論文形式の出題が最良なのは間違いありません。しかし、現状では完全小論文形式の入試問題を採用している学校は数えるほどしかありません。その理由は簡単です。小論文形式の出題は、「出題者側のセンスと労力も最大限要求される」からです。入試問題は学校から受験生へのメッセージとよく言われますが、小論文のテーマをどう設定するのか?ここの出題者側のセンスがもろに問われることになります。

 さらに、受験生が書いた小論文全てに目を通し、様々な角度から受験生の学力を判定し、それを正当に点数化する必要があります。子供たちの将来を一部左右する重要な入試ですから、当然採点者の責任は重大です。

 現状では、物理的な要因・時間的な要因も重なり、多くの学校ではこのような思い切った小論文形式の問題を出題できないというわけです。その意味でも、先の埼玉県難関私立の「割りばし問題」がいかにチャレンジングな問題であったがおわかりでしょう。伝統的な難関校だから自信を持って出し得た、その学校の自信がそのまま問題からあふれ出てくるような入試問題と言えます。

〇最後に…

 さて、今回の大学入試改革の骨子をおさらいすると、従来通りの試験を改良し、より生徒たちの「真の学力」を見られる形式に近づけようというものだということがわかったかと思います。全国の大学生が受験することになる試験ですから、完全小論文形式と言った思い切った試験スタイルは不可能であるもの、少しでも多くその要素を取り入れようということです。そこで問われる一番の力は、他でも無い「国語力」だと言えます。

文章から正確に情報を把握し、理解する読解力。

そして、そこから自分の考えを正確に伝える記述、論述力。

さらには自分の考えのよりどころとなる発想力、独創力。

 これらの力を鍛えることこそ、2020年以降の大学入試を突破するための最大の武器となるのです。そして、言うまでもなくこれらの力は子供たちがやがて大人になり、社会人として未来を生き抜くために必要な力であることに他なりません。

 

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