2021 クセジュ小学部 対談

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クセジュ小学部対談
これからの時代の新しい学力観と3つの重要ワードクセジュ小学部のこれからの取り組みについて

対談メンバーの紹介
○ 司会
川口 裕之

(クセジュ小学部責任者 ヒューマンサイエンス担当)

○ 話者
池村 卓人
(クセジュ小学部 ナチュラルサイエンス責任者)

柳通 敦子
(クセジュ小学部 ヒューマンサイエンス責任者
鈴木 健太
(クセジュ小学部 エレメンタリーイングリッシュ責任者

▶︎ 教科の枠を超えたクセジュ小学部の特徴について

川口:本日はこれからの時代の教育やクセジュ小学部の取り組みをご自由にお話しいただければと思います。まず初めにクセジュ小学部の特徴を申し上げます。クセジュ小学部は教科の枠から離れ、人間を対象にしたヒューマンサイエンス(HS)、そして自然を対象にしたナチュラルサイエンス(NS)、さらには言語学と歴史を融合したエレメンタリーイングリッシュ(EE)という3つの教科に分かれています。

池村:このシステムは今から15年ほど前にスタートさせました。小学生の間に読み、書き、計算といった基本的な学力をつけることは確かに重要ですが、それ以上に大切なのは学ぶことに対する興味関心と期待感です。小学生の子供たちは常に知的関心とセットで学んでくれます。それを大切にするということが大前提です。

鈴木 : 小学生の間に知的好奇心を最大限引き出すことがクセジュ小学部のコンセプトといってもよいと思いますね。一方的に何かを教えるというよりも子供たちの学びの意欲をいかに引き出すかということを我々は常々考えています。

柳通 : いわゆる子供たちの「なぜ?」を大切にする授業ですね。またナチュラルサイエンスは自然科学を対象にした算数と理科の融合、ヒューマンサイエンスは人文科学をベースにした国語と社会の融合といってもよいと思います。教科の枠に縛られずに学ぶということが小学部のコンセプトでもあります。0615e-6786894-3865381
川口:
小学生の時期に教科の枠を超えて、物事を多角的・多面的に捉える習慣、単なる知識として覚えるのではなくその背景やルーツに目を向ける姿勢を育むことはその後の高い学力や教養につながります。これはクセジュの歴史を見ても明らかですね。

池村:そうですね。中学生になると算数は数学になり、具体から抽象の世界に変わります。実は数学がどのようにして生まれ、どう発展してきたのかというルーツをたどると、そこにも具体から抽象という大きな変化が見られます。

鈴木 : 具体から抽象というのは簡単に言うと数から文字に変わるということですか?

池村:はい。小学生の間は具体的な数、例えば円周率も3.14で計算します。しかし中学生になると円周率はπに変わります。具体的な数字から抽象的な文字に変わるのです。そこで小学生の間にただ公式を覚えて問題を解くというスタイルの勉強ではなく、ルーツに注目する習慣を身につけておくと、算数から数学に変わったとしても常に背景やルーツを意識しながら学び続けられるようになります。

川口:中学生になって具体から抽象に変わったとしても十分に対応できるということですね。私自身、学生の頃は、数学は解けたら楽しいけど解けなかったらつまらないというように得意、不得意がはっきり分かれる教科という印象を持っていました。私は数学があまり得意ではなかったので好きか嫌いかと言われれば嫌いな方でした。

池村:“ 解けること”の楽しさも大事ですが有名なフェルマーの定理やポアンカレ予想のように“ 解けないこと”を楽しむ姿勢も大切なのです。また1つ1つの公式や定理をたどっていくと数々の人間ドラマに触れることができます。このように常に背景やルーツに着目する姿勢を身につけておけば、解ける、解けないという二元論的な考えではなく、数学という教科を俯瞰的に見ることができるようになり、数学を学問として捉えることができます。

鈴木 : 私も理系出身ですが、クセジュの小学部出身の生徒で数学が得意な子の大半は数学を俯瞰的な視点で捉えている生徒が多い気がします。

▶︎ これからの時代に必要な教育観と3つのキーワードについて

川口:さて皆様少し話題を変えてこれからの時代に必要な教育観について語ってもらいます。

池村:昨年からの大学入試の変更を皮切りに、現在は大きな教育改革の真っ只中にあります。文科省も「これからの社会で求められる学力」が時代とともに変化しているのを敏感に感じているのだと思います。

鈴木 : 30年以上実施されてきたセンター試験が大学入試共通テストに変わりましたが、入試システムの変更を待たずして、高校入試や中学入試で問われる問題自体はすでにここ数年でだいぶ様変わりしています。最近の過去問などをご覧いただければ、親御さんの頃の問題とのギャップにびっくりされる方も多いはずです。

柳通 : 変化と言えば、受験もそうですがここ10年ほどで幼児教育という言葉が完全に定着してきた感じがします。例えば幼稚園の頃から英会話を習ったり、思考力や発想力を伸ばすために特別な学習機関に通ったりというように・・・。0615f-8494599-7065121
池村:
かつては小学生の早い時期から塾に通うことは中学受験を考えているというケースがほとんどでしたが、最近はそうとも限らないケースも増えてきていますね。

鈴木 : 幼児期からの教育に関する本も増えてきている感じがします。これはやはり私たちをとりまく社会構造の変化が大きいと思います。今現在、世界はGAFAM(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン・マイクロソフト)といったアメリカのIT関連の企業を中心に回っていて、そのような時代に社会で活躍できる人材をどうやって作っていくのか?そのためにはこれまでとは違った教育観が必要であることを社会が感じているのだと言えそうですね。

川口:「シリコンバレー式教育」などと言った本を本当によく目にします。我々も講師の研修や、保護者の皆様対象の勉強会などでテキストとして使うことも数多くあります。

柳通 : 私自身二児の母でもあり、教育業界に身を置いてもいますが、次々に現れる教育に関する新しい情報やトピックスに少しばかり目が回りそうです。「子供にとって何をしてあげるのが一番良いのか?」と戸惑ってしまう親御さんもたくさんいるのではと思います。

鈴木 : ただやみくもに早くから特別な取り組みをする必要は無いと感じています。私は主に英語を教えていますが、クセジュ生の中にも入塾前に英語を習っている生徒の割合は圧倒的に増えています。しかし、出口である高校入試の状況を見ると、必ずしも早くから英語をやっていた生徒が英語の実力がついているわけではありません。

川口:始めた時期よりも大切なことがあるということですか?

鈴木 : そうです。早く始めることで英語に対する抵抗感は少なくなるはずです。しかし、高校入試や大学入試で問われる英語の力は、単語や熟語などの知識の量、発音やリスニングなどのスキルよりもむしろ、「英語を通して読解する力」や「英語を使って自分の考えを伝える力」なのです。こういった力は、実際のところ国語やその他の教科の力と連動しているところが大きいです。

柳通 : その言葉を聞くと親としては少し安心します。幼児教育と聞くと、何か「すでに手遅れなのでは無いか」という罪悪感にさいなまれてしまうところもありますから。

川口:焦って飛びつくのではなく、本当に重要なモノは何なのか?に目を向けることが大切だと言うことですね。そこでこれからの教育を語るうえで特に重要な3つのキーワード「非認知スキル」、「自己肯定感」、「発想力と独創性」について話していきたいと思います。

池村:幼児教育などの本にも必ず登場する言葉ですね。

▶︎ 3つのキーワードの1つ”非認知スキル”について

柳通 : 「非認知スキル」は「物事に関心を持って取り組むことができる能力、1つの活動に長期的に集中する能力、指示を理解しそれに従う能力、失望や不満と折り合いをつける能力、他の人とうまく付き合う能力」です。

池村:その対義語が認知スキルですね。「読み・書き・計算」といった数字で測ることができる力のことを指します。つまり非認知スキルは定量的なものではなく数字で測ることができない、定性的なものであるといえます。また非認知スキルは自律性、弾力性(レジリエンス)、関係性といった言葉とセットで語られることが多くあります。

鈴木 : 非認知スキルを幼児期や小学生の間にどのくらい身につけることができるかが、その後の「学力や教養力」に大きく関わっているという学説が最近は定着していますよね。これからの時代認知スキルはAIに取って代わられる。そこでいかにして非認知スキルを伸ばしていくかが重要です。

川口:先ほどクセジュ小学部の理念の中で話していた「知的関心を引き出すカリキュラムや指導」がまさに非認知スキルを育む機会の1つです。ちなみにヒューマンサイエンスの授業で非認知スキルにつながる指導の具体例はありますか。0615i-3805211-6463797
柳通 :
ヒューマンサイエンスには、「1ヶ月かけて一冊の本をじっくり読みこむ」という授業があります。読んでいく本は多岐に渡ります。例えば現在小6では「レ・ミゼラブル」を読んでいます。登場人物たちのリアルな心情、人間の善悪と言った普遍的なテーマ、さらには物語の舞台となる歴史的な背景などとても読み応えのある物語です。

川口:この授業がどのように非認知スキルと関わってくるのでしょうか?

柳通 : 読書があまり好きでない生徒にとっては、先生と一緒にじっくりと文章の世界を味わう経験だけでも、「忍耐力や継続力」といった非認知スキルに繋がります。一方読書好きの生徒には何となく読み進めていた文に対して新たな視点を投げかけることで読書の深さを実感してもらいます。これによって非認知スキルの一つである「物事に関心を持って取り組む能力」が高まるわけです。ちなみに生徒たちは本を一冊テキストとして使いますので授業後もじっくりと読むことができます。

川口:「正確に文章を読む」とか、「自分の考えを文章で書く」という取り組みは経験による差が大きいですが、クセジュの授業を通じて「本から様々な世界を深める魅力」を一番伝えていきたいですよね。

柳通 : そうですね。また言葉を扱う教科として、授業内外で交わす会話も大切にしています。実は日常会話こそが非認知スキルの一番の育成の場になっているのではないかと思うことがあります。「先生、あのね」と生徒たちが何気なく学校の話をしてくれる時や授業中に意見交換をする時など、実際に会話をした経験から学び取ることは非常に多いのではないかなと思います。

池村:日常会話は非認知スキルのどの部分につながるのですか?

柳通 : 「他の人とうまく付き合う能力」つまり相手の立場に立って考える想像力や視点切り替え力が養えると思います。授業中に限らず授業の前後でも先生と生徒、生徒同士がコミュニケーションをとる機会が多くみられますが、そのような日常の場でも非認知スキルは向上していると感じます。

川口:ナチュラルサイエンスはいかがでしょうか?

池村:1つの活動に長期的に集中する能力、その中でも特に粘り強く取り組む能力、失敗から何かを学び取る能力、いわゆる「弾性力(レジリエンス)」は理系科目で養われる部分が大きいと思います。ですから、月ごとのテーマでいわゆる発展的なことは必ず扱います。0615h-9318277-9857106
鈴木 :
いわゆる「解けないことを楽しませる」ということですか?

池村:そういう側面もありますが、単に難問を課すというだけではありません。時には「原理を家族に説明する」というコミュニケーションスキルを伸ばす目的の宿題も出します。例えばつい最近出したものでは「なぜ、分数で割るときは分母、分子を逆転させてかけ算するのか」などがあります。これには「理解していないと説明できないから真剣に聞かなきゃ」という気持ちにさせる効果もあります。

鈴木 : 単に公式や定理を覚えて問題が解けるかどうかという事だけにフォーカスせずにそれらの背景や出来上がるまでのプロセスを共有して、それにかかわった数々の人たちの粘り強さ、つまり弾性力があってこそ我々の今があるということに共感してもらう、そのようにも解釈できるのですが・・・。

池村:おっしゃる通りですね。単なる上澄みの知識や公理・公式のみ覚えて目の前に出された問題を解くだけでは、問題が解けない時に簡単にあきらめてしまう人が多く出てきます。粘り強く課題に取り組む力、何か失敗した時のストレスを乗り越える力を弾力性すなわちレジリエンスと呼びますが、算数や数学はまさに子供たちが社会に出て必要なレジリエンスを鍛えるのに適した教科であると思います。

鈴木 : テストの点数や結果だけで評価するという風潮がある限りレジリエンスを身につけていくことは難しいのではないでしょうか。算数や数学こそ粘り強く取り組んだという過程を結果よりも重視する教育が必要ですね。

池村:はい。私自身、答えがあっているかどうかよりも粘り強く考え抜いたかどうかにかなり重きを置いております。これからもそれが非認知スキルの中の1つであるレジリエンスに結びつくという信念のもと教えていきたいですね。

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