半月を見て気付くこと

半月を見て気付くこと

 

 ある日、モンテくんが空を眺めたら、半月が南の空高くに上がって(南中して)いました。

いったいそれは何時ごろだったのでしょうか。次のADのどれでしょうか。

 

A 000

B 600

C 1200

D 1800

9月と言えば、中秋の名月。満月がきれいに見える時です。今年は今日、9/13だそうです。

3理科で学ぶ「天体」の授業で生徒に出してみた問いです。

 

さて冒頭の問題について考えてみます。

月はなぜ光るのでしょうか。

そうです。月は太陽の光を反射して光っています。

恒星と呼ばれる星だけが自ら光を放ち、それ以外の惑星や衛星たちはみな恒星の光を反射して光っています。

 

ですから、月の光っている先に太陽がある、と考えてみると、太陽は西の空にあることがわかります。

太陽が西の空にある、ということは夕方ですから、正解はD18:00でした。

 

ともすると、月の南中時刻を丸暗記しようとする人がいますが、「光っている先に太陽がある」という風に考えることで1つも暗記する必要がありません。

さらには、この考え方を利用することで、金星の満ち欠けや、星座の見える方角・時刻についてとても考えやすくなります。

天体は高校受験でも特に合否を分けやすい単元にもなるため、かなりの重要単元です。このように理屈で理解していくことが極めて重要な単元でもある、ということです。

 

ところで、古代ギリシャ(紀元前3世紀ごろ)のアリスタルコスという人物は、モンテくんと同じ光景(南中する半月)を見てあることに気づきます。

それは、「地球の周りを太陽が回っているわけがない。地球が太陽の周りを回っているんだ」ということです。つまり、天動説を否定し、地動説を唱えたのです。

これを見た人は、「ふ〜ん」と思うかもしれません。

紀元前3世紀というと、今からおよそ2300年も前。日本で卑弥呼が登場するよりも遥か前。この頃のヨーロッパでは、地球を中心にあらゆる星がグルグル回っているとする天動説が主流でした。普通に生活していると、確かに、太陽が東から昇り、南を通過して西の空に沈む。多少の高度の違いはあれど、グルグル回っているだけなので、地球を中心にしていると考えるのが普通かもしれません。その時代において常識を覆す考え方を持つ、というのは驚くべきことです。

 

なぜ、アリスタルコスは気付けたのでしょうか。

彼の言い分はこうです。

「西の空に太陽が沈もうとしているときに、半月はちょっとしか傾かない。つまり、かなり遠くに太陽があるということ。かなり遠くにあるにも関わらず月と同じぐらいの大きさに見える。つまり、太陽はとんでもなく大きい、ということ。とんでもなく大きいものを小さいものが振り回すのは不自然過ぎる」

実際にアリスタルコスは、地球から太陽までの距離を計算によって求め出します。月と太陽が真横に並んでいるときの、月地球太陽が織りなす角度が何度かによって、距離と大きさを計算することができます。アリスタルコスが測定してみたところ、角度が87度でした。この角度を元に計算すると、太陽は地球の6倍。月の20倍。重さを計算すると、太陽は地球の200倍以上ということになります。体重30kgの少年が6tトラックを振り回すのと同じ。そんなこと有り得るはずがない!

 

ちなみに、最新のコンピューターの測定では87度の角度は誤りで、正確な測定をすると89.85度です。わずか2度ちょっとの違いですが、これによって太陽は地球の109倍。重さは33万倍にもなります。宇宙の規模を考えると、わずか1度違うだけでも大きな差を生み出してしまうことになります。

 

誤差があったとはいえ、論理的にその時代の常識を覆したアリスタルコスの功績はあまりに大きい。幾何学的なセンスと、何気ない日常に疑問を持てるアリスタルコスは非常に優秀な学者だったと言えます。

 

ところが、当時の人々にはこの考え方は受け入れられませんでした。さまざまな要因がありますが、万学の祖と呼ばれるアリストテレスが「天動説」を主張していたことやキリスト教の誤った解釈が大きな理由です。その後、およそ1800年もの間アリスタルコスの考えたことは封印されたままになっていました。

紀元1500年ごろある人物が登場します。それがコペルニクスです。コペルニクスの考えをさらに発展させていったのがガリレオやケプラーです。

ともすると、教科書に載るのは、コペルニクスやガリレオたちですが、彼らのやっていたことは、根本的にはアリスタルコスの考えていたものを再登場させ、それの正しさを証明していったということです。もちろんアリスタルコスの説以外の様々な観点から地動説の正しさを証明していくわけですが、それでもやはりアリスタルコスの凄さは筆舌に尽くしがたいものがあります。

 

ちなみに、天体を学ぶのは中3になってからですが、クセジュでは、小5のナチュラルサイエンスで、6月「太陽と地球」8月「ガリレオの考えたこと」の中で扱います。

 

ともあれ、以前書いた「エラトステネス」もそうでしたが、古代ギリシャには、最先端の科学にも通ずる「英知」があった、ということがわかります。他の偉人たちについてはまたの機会にご紹介したいと思います。

 

中3学年責任者 中村 健児