1月の中学準備講座のコンセプトは「中学に上がる前に絶対に理解しておきたい知識や考え方を身につける」です。そこで、理系講座では一カ月かけて、徹底的に「割合」を学びます。それだけ「割合」の考え方は重要だと言うことです。
さて、授業ではまず生徒たちにこのような問いかけをしました。
「Aさんは1500円、Bさんは600円持っています。2人の所持金を比べなさい」
すぐにノートに何やら書く生徒もいれば、微妙に戸惑っている生徒もいました。戸惑っている生徒は、私の質問が少し漠然としていると思ったようです。それでも、一応は全員がノートに何かしらかを書いたので、全員の答えを確認してみました。すると次のような意見が出てきました。
①Aさんの方が多い
②Aさんの方が900円多く持っている
③Aさんの方が2.5倍持っている
①は何も間違った答えではありませんが、②、③の方が比べ方としては具体的な数値がある分わかりやすいです。では、②と③の違いは何でしょうか?この問いは生徒たちにとって簡単だったようです。②は「引き算」で比べていること、③は「割り算」で比べていることをすぐに答えてくれました。
次にこのような質問を生徒たちに投げかけました。
「2つの量を比べるときは、いま皆さんがあげてくれたように、引き算で比べる方法と、割り算で比べる方法の2つがありました。では、割り算で比べる方法は引き算で比べる方法よりも良い点は何ですか?」
この質問は、生徒たちにとってははじめての質問だったようです。先ほどの質問でスラスラとノートに答えていた生徒達も暫く筆が止まっています。実は、割合や割り算を学ぶ初回の授業で一番生徒たちに考えて欲しかったのはこの質問です。多くの小学校では「算数の問題の計算方法」を学びます。なので、割合の分野で言えば、先ほどの1500÷600=2.5 という計算が出来ていればテストでは合格となるわけです。ただ、残念ながらこの計算が出来ている生徒であっても、割合の意味がわかっていない生徒が多く存在します。それは「算数の問題の意味」や「その単元をどうして学ぶ必要があるのか?」といった、根本的なことを理解していないからです。割合を学ぶ際に、最も大切なことは計算をする前の段階、つまり「割合自体の意味を考えること」であったり、もっと根本をだとれば「割合を学ぶことの意味」なのです。
そうこうしているうちにポツポツと意見が出始めました。その中で一番多かったのが、「割り算で比べる方法は、2つの数が大きくても、小さくてもイメージがつかみやすい」という意見です。
なかなか良い意見です。先ほどのお金のお話で二人のお金をAさんが39,235円、Bさんが15,694円だったとしても、39,235÷15,694=2.5なので、2.5倍は2.5倍で変わりありません。確かに、よくテレビなどで「この敷地は東京ドーム〇〇個分の広さ」という表現をしますが、これはまさに割り算によって広さを比べている典型的な例です。これを引き算によって比べたとしても、両者の面積が大きい分、確かにイメージはわきづらいかもしれません。
なかなか良い意見は出たものの、私が用意していた答えにたどりついた生徒はいませんでした。それもそのはず、多分生徒たちがこの話を聞くのは初めてのことだからです。
実は割り算で2つの量を比べる一番のメリットは「単位が存在しないこと」なのです。
先ほどのお話に戻りましょう。1500円と600円を比べていました。この2つを引き算で比べる場合は、
1500円―600円=900円 となります。
一方、割り算で比べるとどうでしょうか?分数で書いた方がよりわかるでしょう。
数の約分と同様、分母と分子に「円」という単位があるので、単位どうしも約分され消えてしまうのです。
東京ドームの例で言っても同様です。東京ドームの面積は46,755m2です。いま、比べたいものの敷地が、
116,887.5 m2だったとすれば、
これまた、単位どうしが約分されて消え、単位の無い数字2.5が出てきます。
つまり、割合を使うことで「お金」の話だろうが、「面積」の話だろうが、2.5という数字は同じ土俵の数字として比べるこことができるのです。算数や数学ではあまり単位の重要性を認識する機会はありませんが、理科の分野で扱う数字のほとんどは単位を持った数字です。むしろ、中学や、そして高校の理科では単位を意識した割り算理解できているかどうか?が、理解の差にとても大きく影響を与えます。
「単位どうしの約分」という考え方は全員にとってはじめてのことだったのか、多くの生徒はピンとくるというよりは一生懸命私の話をノートに書き留めてくれていました。ある程度「単位」というものの存在を強調した上で、授業は次に進みます。
では今度はこんな問題を考えてみて下さい。
「物体Aは体積が200㎤で、重さが500g、物体Bは体積が900㎤で重さが2025gです。さて、同じ大きさで比べた時に軽いのはどちらでしょうか?」
いわゆる「密度」についての話です。この問題は計算して答えを出すだけの問題なのでほとんどの生徒がスムーズに解けていました。
物体Aの密度 500g÷200㎤=2.5
物体Bの密度 2025g÷900㎤=2.25
この結果から、Bの方が同じ体積で比べたときに軽いということになります。
この問題にただ答えるだけならば、それで終了です。先ほど「単位」についての話をしました。同じ単位どうしのものを割り算することによって得られる割合は単位が存在しないことがメリットでした。さて、今度は違う単位のものどうしを割り算しています。改めて先ほどの式を見てみましょう。
物体Aの密度
数字だけでなく、単位どうしも割り算されるため、重さを体積で割ったものの単位は「g/㎤」となります。ちょうど、/が割り算の意味を表します。これが密度の単位です。つまり、違う単位どうしを割り算することにより、新たな単位が生まれるのです。これは理科ではよく登場する考え方です。「g/㎤」により、様々な物体を同じ体積で比べたときの重さ、つまり「物体の1㎤あたりの重さg」が表されています。
では、この割り算をすると何が出てくるでしょうか?
物体Aについての計算 200㎤÷500g=0.4
物体Bについての計算 900㎤÷2025g=0.4444…
先ほどから単位にこだわっていたこともあり、生徒達もスムーズにこの計算の意味を言うことが出来ていました。
今回は体積cm3を重さgで割っているので、出てくる単位は「㎤/g」となり、その意味は「1gあたりの物体の体積」となります。つまり、物対Aを1gだけ持ってきたとき、その体積は0.4㎤だけあるということです。一方物体Bは同じ1gを持ってくると、その体積は0.44…㎤だけあるということです。
結果として、同じ重さなのに大きな体積を必要とするBの方がやはり軽いと言うことがこの割り算でもわかります。
このように、単位に注目しながら「割り算の意味」を考えていくことは非常に重要です。簡単な問題であれば、計算のやり方さえ頭に入れておけば問題はないでしょう。しかし、これでは「公式や記憶に頼った力」ということになります。これは非常に脆弱な力です。記憶があいまいになったらそれまでということです。簡単な問題ならば解けるが、応用になると解けない…という悩みのほとんどがここにあります。そういった人は、似たような問題を記憶しているから問題が解けるだけであって、「問題や公式の意味」を理解してはいないのです。
それは非常にもったいないことです。クセジュでは子供たちが中学に上がる前に、これから学ぶ様々な事柄に対する「学び方」そのものをじっくりと伝えていきます。単なる先取りよりも、問題を解くだけの復習とは違った、もっと重要なことがあると考えているからです。ただ問題の解き方、テクニックを教えるのではなく、問題の意味や背景、さらには「何故その問題が重要なのか?」と言った根本に常に立ち返るのがクセジュの授業の特徴です。
今回は割り算の意味を考える初回の授業で、導入がメインとなりましたが、2回目以降は身の回りにある割り算の単位に目を向けながら、より本質的な、そして応用問題を考えていきます。
新松戸教室 野口 智