社会科が好きになる子どもを育む環境づくり

クセジュの日常

(最終更新日

 社会科が好きになる子どもを育む環境づくり

「うちの子、社会が苦手なんですよね~。しかも、全然興味もないみたいで・・・」

 塾業界で働くようになって、15年以上が経ちましたが、毎年このような相談を保護者の方から受けます。そして、そのような相談は年々増えていると感じます。これには、実は家庭環境の変化や社会の変化に大きな原因があると考えています。では、社会科が好きな子どもを育む環境とはどのようなものか。それを今回は紹介していきたいと思います。

① テレビを活用する

 テレビは最も有効なツールであると言えます。それは、家族で共有しやすいからです。毎週日曜日に放送されている大河ドラマや歴史を題材としたバラエティ番組など、社会科をテーマにした番組は多くあります。このような番組を食事時に流しながら、それを題材として会話をするだけでも十分です。個人的には、最近やっている、「ぽつんとある一軒家を訪れる番組」が非常に面白いと思っています。

 そして、テレビがついているだけで、自然とその情報が入ってきます。例えば、食事のときにニュース番組が流れているだけでも全然違います。何かを覚えようとするときに、「覚えよう」と強く意識すればするほど、なかなか覚えられないもので、これは社会科の勉強で陥りがちなケースです。

 しかし私が授業中に、生徒たちに最新のニュースの話題を出すと、「なんとなく聞いたことがある」程度の生徒は多くいます。けれども、子どもたちが積極的に情報を獲得しようとしているケースはまれで、このような家庭ではテレビでニュース番組をつけているケースが多いのです。

 思い起こせば、私の子ども時代も、朝食時は基本的に報道番組がついていました。同年代では、朝に放送されている子ども向け番組やアニメを見ている人もいましたが、幼少期よりその状態でしたので、あまり疑問にも持ちませんでした。

 テレビの利点は、リラックス状態で知識を得ることができる点です。そして、もう1つのメリットが子どもの意思とは関係なしに情報を与えるという点でしょう。

 

② 書籍や新聞は自然な形で

 書籍は意思に反して情報を提供するテレビと違って、能動的にそれを獲得しようとする必要があります。ここで、親の方が書籍を読むように促してしまうのは効果的ではありません。ここでは、ある程度は「待ち」の姿勢をとることが必要であると言えます。

 ただ、特別なことは何もする必要はありません。子どもが手に取れるところに置いておくだけで充分です。一番身近な例は新聞。新聞を定期購読して、リビングのテーブルに置いておくだけでもよいのです。ただ、大前提として、それを親自身が読んでいることが重要です。親が読んでいる姿を見ることによって、子どもたちも自然に手に取って読むようになります。最初はスポーツ欄などの、子どもが興味あるところだけでも十分です。社会科とは若干ずれますが、それでも資料やデータの利用の仕方、文章を読む力も高まります。また、そのページに至るまでに、いくつかのニュースの見出しに出会うことだけでも、世の中の動きを知る第一歩になるでしょう。

 書籍も同様です。これも親自身が興味深く読んでいれば、子どもが手に取るかもしれません。これは子ども向きである必要も全くありません。むしろ、子ども向きにすることによって、親の「読ませよう」という気持ちが伝わってしまい逆効果です。もし、子どもが興味を持ってアプローチしてきたならば、そのときに子ども向けのものを購入してあげてもよいでしょう。

 繰り返しになりますが、親が率先して動き、子どもが受動的になってはいけません。その瞬間に子どもにとっては「やらされていること」になります。しばしば、「新聞をスナップさせる」、「まんが日本の歴史を読ませる」などのアプローチを耳にしますが、子どもが求めない限りは効果的ではありません。

 

③ 旅行では史跡を訪れる

 旅行も子どもに興味を持たせるよい機会となります。いつもと違う土地に行くだけで、地理的な興味や関心を広げ、知識も深まります。百聞は一見に如かずで、どれだけ書籍や写真、映像で見るよりも、自身の目で直接見ることが何よりの刺激になります。

 また、その計画の段階から子どもを巻き込むことでさらに効果的になるでしょう。行く場所や宿についてはさすがに子どもが決定するのは難しいですが、旅行の案内本などを開きながら、子どもに見に行きたい場所を決めさせてもよいと思います。予習して授業を受けることで、授業の効果が高まるように、事前に訪れる場所について知っておくことによって、その場所についてより詳しく知れます。また、地図などを見ることもよい勉強になります。

 

 そして、旅行中にはぜひ史跡を訪れてください。社会科に興味が湧かない子どもに共通しているのが、「イメージが湧かない」というものです。例えば、「江戸時代」と言われて、社会科が好きな子どもは、「江戸の街並み」、「武士の服装」、「城」などが頭にイメージされます。そのイメージに獲得した知識を上乗せしていくのです。ですから、新しく獲得した知識が非常に具体的になります。興味が持てない子どもは、これが抽象的で、文字だけが頭の中で一人歩きをしているのです。

 

 よく、「大人になって社会科が好きになった」という人がいますが、これは見聞が広がることにより、得た知識が具体的になったからであるといえるでしょう。

 

好きになるのが得意の一番の近道

 数学などでは定理や公式を知るだけでは学力に直結しにくいですが、社会科という教科の特徴として、知識を得れば得るほど学力が高まる傾向にあります。そして、知識を獲得するのに最もよい方法は、社会科を好きになることに他なりません。

 しかし、近年の社会の変化が、社会科に興味を持つ子どもを育みにくくしています。例えば、スマートフォンやタブレットの普及は、家族全員が1つのテレビ番組を観る機会を減らしました。

さらに、それらのツールでは、個々人が得たい情報を取捨選択しやすくすることによって、自身が求めていな情報を取り除くことができます。それは一見便利なようですが、他方では見聞を広げる機会を奪っていると言えるでしょう。ですから、周りにいる大人たちが、子どもたちを取り巻く環境が変化していることを意識して接する必要があるのです。

社会科教科主任 野口 智