大きく変わる学校教育 現代の子どもたちに必要な教育環境とはどのようなものか(後編)

対談シリーズ

(最終更新日

 

安易に使われる“国際化”や“インターナショナル”に物申す!

鈴木:現在、国際化の波がどんどん押し寄せてきています。あらゆるところで国際化が進んでいることを実感します。その一方で、2020年は東京オリンピックもあり、海外の国や文化を知る以上に“日本そのものを相対的に知る機会”になると思います。

佐々木:先日行われたラグビーのワールドカップでも、日本代表の半数近くが外国籍でしたね。野球では“助っ人外国人”という言葉がよく使われますが、ラグビーの場合は日本代表として出場しています。それに対し「日本国籍じゃないから日本代表と言うのはずるい!」「応戦する意味がない!」と思った人はほとんどいなかったと思います。これも国際化のひとつの形だと思います。

宮崎:確かに、ラグビーは色々な国の人が集まって日本代表になる、すなわち、多国籍メンバーです。そんな多種多様な文化を持ったメンバーが“ONE TEAMの精神”で戦い抜いたことに、多くの人が勇気と感動をもらったのではないですかね。私もかなり感動しました。

鈴木:本当にそうですね。また、最近人手不足の問題解決や働き方改革の一環でどの企業にも外国籍の人が増えてきています。そして、彼らと一緒に仕事をするうえで必要なのは英語力です。ある日本企業は社内で英語しか使えないというルールを用いています。この現象も1つの国際化と言えますね。

佐々木:世間一般的に「国際化=早い時期から英語力を身につけなければならない」いうというイメージが自然発生しています。ここ最近、日本でもインターナショナルという言葉を使った学校が増えてきていますね。

鈴木:私も息子の幼稚園を決める際にインターナショナルという言葉を使った幼稚園のパンフレットを一応手に入れました。試しに電話をしてみるとキャンセル待ち6カ月と。すごい人気ですね。

宮崎:言葉に柔軟な時期に英語力を身につけることは確かに効果的です。一方で、しっかりとした日本語、そしてその背景にある日本の歴史や文化を身につけることはそれ以上に重要です。

佐々木:「とにかく英語だけは早い時期から学ばせなければならない!」と思う親の気持ちはよくわかります。親も子どもの将来のために何か役に立つことをしてあげたいという一心で環境を用意するのは当たり前のことです。しかし、ここで「ただツールだけ身につけさせれば安心」という考えにならないように考えてもらいたいですね。英語はあくまでツールであって万能薬ではありませんから。

鈴木:おっしゃる通りです。確かに、国際化によってツールとしての英語力は必要かもしれません。その一方で、「英語は話せるけれど中身がまるでない」という日本人を数多く排出してしまう危険性もあるのです。何も考えずにただスキルとしての英語力を身につけるという環境に長く身を置くことで、色々な国の人と接する機会が数多くある中でだんだんと浮いてしまうのではないでしょうか。

宮崎:浮いてしまうとは?

鈴木:15年ほど前、私はクセジュの英語の講師をしているにもかかわらず、お恥ずかしながら英会話教室に通っていた時期があります。

佐々木:鈴木先生が英会話教室に通っていた理由を知りたいですね。

鈴木:アメリカに行って自分の英語が通じなかったからです(汗)英会話教室ではロンドンで学校の先生をやっていたイギリス人男性の先生に教わりました。すでに仕事をリタイアした、当時で65歳くらいの方でした。彼は英語しか話せないのですが、とにかく日本のことを聞いてくるのです。

宮崎:日本のこととは?

鈴木:主に日本の歴史や文化に関することですね。例えば“神道と仏教の違い”などです。

宮崎:ずいぶん難しいことを聞いてくるのですね。

鈴木:それを次回の授業までに調べて英語で説明できるような準備をして臨むのです。いざ授業で私がこれ見よがしに説明をしても彼は全て知っているんですよね。

宮崎:知っているのに聞いてくるなんて、先生の意図は何だったのですか?

鈴木:「久夫、私が聞きたいのは事実ではない。事実は調べればわかる。私も日本の歴史や文化もある程度知っている自信はある。そうではなく、あなたはそれをどう考えているのか。日本人はどういう解釈をしているのか。そのような考えが文化レベル、国民の生活レベルにどのように落とし込まれているのか。私はそれを聞きたいのです。」そう言われた瞬間、私は今までの自分の勉強してきたことに対して、羞恥心と一抹の虚しさを感じました。

宮崎:なるほど。歴史に対する解釈のことですね。歴史は“覚える教科”ととられがちです。でも、実は“思考する教科”なのです。歴史をさかのぼるほど、その当時のことを知っている人はだれも生きていないわけで、当時の文献や歴史的文化財などから判断して史実を考える。史実をただ暗記するのではなく「昔の人がなぜそのようなことをしたのか、それに対してどう思うのか。そして今の自分の生き方にどのように反映させるのか。」というところまで勉強するのが欧米ではスタンダードです。そこから自分の考えと融合させて新しい価値を作り出す。鈴木先生の英会話の講師も欧米人によくみられるタイプで、日本人にはなかなかないですね。

佐々木:そうなると、どんなに英語が話せても中身が伴わないと国際社会の中で孤立してしまうということですね。当時の鈴木先生は英語を話すことはできたけれども、中身が伴わなかったということですか。

鈴木:どちらもだめでした(笑)。でも、その時に感じたのは“相手の立場に立って考える想像力”の必要性です。それは相手がどういう国に生まれ、どのような環境で育ってきたのか。彼はどういう歴史があり、どのような文化のもと暮らしてきたのか、ということをできるだけ知ることの重要性です。

宮崎:先ほどの英会話の先生は、自分の考えと相手の考えを融合させて作り出す創造力を無意識に鍛えていたのでしょう。一方で、鈴木先生が述べた相手の立場に立って考える想像力はあらゆる場面で必要ですよね。

佐々木:ネット社会が成熟期を迎えるなかで進む国際化。当然外国人と一緒に仕事をする機会が増えます。その時に相手の立場に立って考える想像力は絶対に必要ですよね。同時に相手の考えと自分の考えを融合して新しい価値を作り出す創造力も試される時代になります。 国際化ということでさらに言えることがあるとしたら、日本という国は色々な文化や宗教を取り入れそれを融合して独自の価値観を作り出すという“東洋思想の中心”のような捉え方をしている欧米人が非常に多いということです。

宮崎:ラグビーに話が戻りますが、日本の礼儀正しさを真似してお辞儀をするチームがどんどん増えていったのも、開催国に対する配慮というレベルではなく、真剣に日本の文化や慣習を取り入れたい、その背景を知りたいという外国人が増えてきているからだと思います。そういう点でも、日本は世界から注目されているということを自覚したうえで、国際化とは何かを考えるべきです。

鈴木:ビジネスにおいても国際化を意識する場面はどんどん増えていきます。ネットで簡単に買い物ができる時代ですので、顧客が日本市場から外国市場にまで広がっています。日本人には売れるけれど外国人には売れないということがあった場合、それは単に文化の違いという側面だけでなく、あらゆる問題が複合的に絡み合っていることが多く、それらを解決する能力も問われます。

 

子どもたちが磨くべきは“想像力”と“創造力”

宮崎:話は変わりますが、ネット社会が成熟期を迎えるにあたり、パソコンが自在に使える人材が必要になるということで、小学校低学年からプログラミングを学ぶ風潮が英会話と同じくらい広がっています。これも同じ問題が危惧されるということですよね。

佐々木:全くその通りです。英語と同様にプログラミングもツールの1つです。そのツールを使って「何を創造するのか」ということの方が圧倒的に大切です。ちょうど英語を使って何を伝えるのか、何を考えるのかということと同じ原理だと思います。

鈴木:極端な話、英語が話せなくても、通訳または通訳ソフトを使って活躍できます。プログラミングができなくても、専門家を雇えば自分が思い描くプログラムができるということですね。

宮崎:私も同感です。その一方で、英語力やプログラミング力を高めることにこしたことはないと思います。それらの技術を身につけるプロセスによって広がる世界もありますから。ここで主張したいのは、これらのツールを使う目的は何かを常に周りの大人が知らしめる、見せる、実感させる機会を作ることが重要だということですね。

佐々木:知識や技術を無批判に取り入れる、身につける、演習を通して使える状態にするという従来の日本式の学習システムや学習環境の中で英会話やプログラミングを取り入れても、真の国際化が進んでいくにつれて役に立たなくなる可能性があるということですね。

鈴木:その通りです。クセジュは35年前に開校したときの思いを教育システムに反映させて今に至っています。特に今回話題に上がった“想像力”と“創造力”。これらをバランスよく身につけていくことを知識や技術を身につけていくことと並行して意識していかなければなりません。まだまだ柔軟な小学生や中学生の時期にこの二つの力を養っていく。

佐々木:これらの力はクセジュで身につく6つの力の中のC(想像力)とF(創造力)に分類されていて、特に社会や国語の授業でしっかりと身につける環境が整っています。

宮崎:国語の授業ではCの想像力は小説読解で、Fの創造力は創作文やクセジュオリジナルの設問プリントでじっくりと養っていきます。

鈴木:お子様をお預かりする以上、彼らが社会人になった時どのような社会になっているのかに対して常にアンテナをたて、そして彼らがどんな活躍をしているのかをイメージしながら今後もクセジュの学習環境をより良いものにしていきます。

佐々木:2020年の新中1から新たに取り入れるカリキュラムもありますので是非期待してください。

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