理科が苦手(嫌い)な人への処方箋
若者の理科離れと言われるようになって久しいですが、“技術立国”日本の根底には理科好きの風土が根付いていると信じています。
今回は、理科が苦手な人へのアドバイスを書いていきます。
(目次)
- なぜ苦手意識を持ってしまうのか
- 好きになるための心構え
- 具体的な学習方法
- 参考書籍や教材
なぜ苦手意識を持ってしまうのか
理科は暗記科目でしょうか。
いいえ。観察、実験、考察を駆使して、自然に対する理解を深める教科です。しかし、たくさんの用語が並んだ教科書にうんざりした経験のある人は少なくないでしょう。
ではなぜ覚えるべき用語が多いのか。我々の住む宇宙、自然界の背後に横たわる法則を知るためには、まずは自然界に存在するものに名前を付けなくてはならないからです。
我々が名付けたものについて、あーだこーだと議論した先に、やっと宇宙の摂理とも呼べる法則が得られるわけです。
要するに、理科という教科には用語暗記という側面と原理法則の理解という側面があります。
この2面性が理科の苦手を助長していると考えられそうです。よって、「理科の苦手」をひも解いてやると、次の2パターンに分類できます。
①覚えきれないから
用語暗記が苦手な人はこの状態です。テスト中、こんな経験はないでしょうか。
「あ~、さっきから思い浮かぶ用語はあるんだけど、この問題の答えではないんだよなあ。でもこの用語と一緒に習ったんだよなあ。。。」膨大な量の用語を、しかも少し似ていて紛らわしい用語たちを覚えなくてはならず、頭がパンクしてしまう。
いつも迷って書いたのと逆の方が合っている。用語暗記についての不満ときたら、留まるところを知りません。
このような状態に陥らないようにするには、ちょとしたコツがあるんです。それは、複数の用語どうしの共通点や相違点、関係性に着目した暗記方法で、「③具体的な学習方法」の節で詳しくお話します。
②理解できないから
こちらは、原理法則の理解が苦手な人の状態です。
先生の言っていることがよくわからない。あれ、今の話って教科書何ページのこと?計算問題を前にいつも手が止まるんだよね~。そんな悩みを持つ人が多いのではないでしょうか。
たしかに、中学理科は抽象度の高いものを対象としている単元もあり、初めからすんなり理解できる人はごく少数でしょう。ですから、初めの説明が難解だと感じると即座に「苦手」の刻印を押してしまう。そんな悲しい状況を想像します。
このような状態に陥らないようにするためには、授業後に復習を欠かさないことが大切。そう言いたいところですが、ほかの教科に割く時間も考えるとやっぱり復習だけには頼りたくありません。
最初から高いレベルで理解したいですよね。そのためには、日常に隠れた具体例に触れることが大切です。
抽象的な法則が難しいなら、それが適用された自然現象、電化製品から知ることです。イメージを膨らませましょう。
好きになるための心構え
覚えきれない、理解できないという苦手に、根性で立ち向かえと言ったらそれは酷なものです。
まずは相手を知ることで意外な突破口が見えてきます。
そう、理科という科目は少し特殊で、詰め合わせの教科になっているのです。
数学や英語が積み上げ式であるのに対し、理科はもともと別の4つの分野が一緒にされたもので、それぞれが比較的独立しています。
ひと昔前は、物理、化学、生物、地学の4分野を、1分野(物理、化学)と2分野(生物、地学)に分けていました。1分野は原理法則の理解という側面が強く、2分野は用語暗記の側面が強くなっています。
ただ、この世間一般な分け方もある程度賛同しますが、私は少し違った捉え方をしています。物理、化学、生物となるにつれて原理法則の理解より用語暗記が強くなるとし、地学はそれら3分野のすべてと関連があるという捉え方です。図にすると以下のようになります。
このように考えるのは、「物理の上に化学が、化学の上に生物が成り立っている」という言説の影響が大きいです。
また、地学は地球についての学問なのだから、地球を多面的に観ることが必要になるという考えの現れです。
要するに、理科の中に性格の異なる4分野が同居しているわけです。
これを踏まえると、自分の興味と得意に合う単元が見つかるのではないでしょうか。理科を全部好きになることは難しくても、特定の単元だけであれば好きになれそうです。
とは言うものの、やはりどの単元も好き、少なくとも興味があるという状態が望ましい。
理科を全体として好きになるには、自然に対する興味関心を育てることが大切です。興味や関心は家庭環境によって形成される面が強いといえますから、保護者の立ち振る舞いが重要です。
そこで気を付けなければいけないのは、強制をしないことです。保護者が躍起になって科学の本を読ませたりすると、子どものやる気は半減してしまいます。興味は子どもの内側から生じるものですから、保護者の意図が介入してはいけないのです。
では、どうすればいいのか。環境づくりに徹することが大切です。
科学の本、図鑑、百科事典は読ませるのではなく、本棚に置いておく。保護者はその本を読んで楽しむ。また、あくまで保護者の趣味として、生物のドキュメンタリー番組を視聴するのもよいでしょう。
そんなふうに、科学の知見を広げることは楽しいことだという姿勢を見せていれば、子どもも自然と科学に興味を持ち、本を手に取るでしょう。
そして、子どもが自然に対する「問い」を発するようになれば、大きく前進したと思っていいでしょう。
ここで、あえてすぐには答えを出さず、その疑問に寄り添ってあげることをお勧めします。
子どもの「なぜ」「どのように」といった疑問を一緒に考えることは、自然を束ねる法則を追求するトレーニングになります。
この経験が、理科という教科の原理法則を理解する側面で偉大な効果を発揮するのです。
具体的な学習方法
さきほど説明した通り、理科の特徴は、12単元のうち最も好印象な単元だけを集中的に取り組めるという点です。
これを最大限活かしましょう。
理科という教科全体を好きになるのはまだ先の話として、まずは1単元だけ好きになる。ただし、一度好きになると決めたらとことん愛してください。
その1単元は誰にも負けないくらい極めるということです。そうすると自信が湧いてきて、ほかの単元に取り組むモチベーションになります。
実際、理科のどの分野もつながっていますから、極めた分野の知識が他の分野の理解に役立つという恩恵もあります。
植物を最初に学習する
ただ、どれも強く心に響くものがない、という場合も考えられます。
1つに決められない人は、生物の植物という単元がおススメです。中学1年生の最初に学ぶこともあり、とっつきやすい単元といえます。身近なところに植物はたくさんありますし、具体的なイメージがつかみやすいからです。
また、「①なぜ苦手意識を持ってしまうのか」の節で言及した「ちょっとしたコツ」が試しやすいのも見逃せません。
コツをつかんだ暗記法(一極集中)
では、「ちょっとしたコツ」について植物に当てはめながら説明します。
コツをつかんだ暗記法とは、表や系統樹を活用して、複数の知識をいっぺんに覚えるというものです。
例えば、双子葉類と単子葉類の違いは表に、植物の分類は系統樹にまとめます。
教科書や参考書でよく見かけるものですから、思い浮かぶ人も多いのではないでしょうか。
私がここで問いたいのは、それを何も見ずに忠実に再現できるか、ということです。多くの人がなんとなく眺めて終わっているのが惜しいところ。
表や系統樹を忠実に再現できるようになれば、もともと10個の別々の知識だったものが、1個の知識として引っ張りだせるようになるのです。
クセジュではこの手法を「一極集中」という名称で指導しています。
問題演習よりイメージの増強
理解を要する物理や化学で特に陥りがちなのが、問題演習を繰り返しているのに解けるようにならない、という状態です。
こんなときは、何かを勘違いしている可能性があります。
しかし落ち込むことはありません。問われ方はわかっているのですから、根本的に間違っている部分だけ修正すればすぐに解けるようになります。
勘違いを修正するには、具体的なイメージをつけることが有効です。
自分が計算で出したいものの正体を知りましょう。最もお手軽で効果的なのは、インターネット上の動画を視聴することです。
一般人が自由に動画を投稿できるようになったおかげで、わかりやすく面白い動画が多くあります。家では危険で準備が大変な実験も、簡単に観ることができるのです。
参考書籍や教材
では、何を用いて学習を進めていくとよいでしょうか。
単純にわかりやすく内容が濃いだけでなく、さらに理科の学習を進めたいと思える仕掛けが重要です。
小学生の興味関心が育ちやすい時期であれば、家庭内の環境づくりが大切です。
本棚には図鑑や百科事典をさりげなく置いておき、週に1度の番組視聴を習慣化します。
大切なのは、まずは保護者が楽しむことでした。私がお勧めするテレビ番組は、NHKの「ダーウィンが来た!」です。
内容は、回ごとに1種類の動物に密着してその生態を明らかにしながら、登場する動物の成長を捉えるというものです。日曜夜という時間帯も、家族で楽しむにはもってこいですね。
中学生になって苦手意識が形成されてしまったあとは、家族で楽しむことが難しくなってきます。
ぜひインターネット上の動画を視聴してみてください。自分から能動的に検索するという行為が、知識を吸収しやすい状態を実現しています。
刺激的な演出も相まって、引き込まれていくのではないでしょうか。
また、動画視聴は理科が得意な人にも実践してもらいたいものです。
というのも、教科書の範囲を超えた面白い動画がたくさん転がっています。例えば「物理 シミュレーション」と検索すれば、なにやら面白そうな題材が多数見つかります。
壮大過ぎて現実世界での実験ができないことを、仮想的なシミュレーションの世界でやってのけているのです。
さらに学習が進み、ある程度中学で学ぶ範囲が理解できてきたら、発展的な内容の本を読んでみてはいかがでしょうか。
講談社の「BLUE BACKS」シリーズは、最先端の研究を噛み砕いて説明してくれています。
本によっては高校レベルの知識まで要求されるので注意が必要ですが、大まかな内容を理解するにはもってこいの良書揃いです。大人も楽しめますから、本棚に並べておくといいでしょう。
最後になりますが、誰でも持っている良書を発表したいと思います。
それは学校で配布される資料集、あるいは便覧と呼ばれるものです。常に学校のロッカーに眠っているというのではもったいない。ぜひ目を通してみてください。
写真で具体例が確認できるようになっているので、イメージの増強に役立ちます。
理数科 新井雅樹