クセジュ中学部対談
変わる入試。これから問われる学力と、親の在り方、中学三年間で大切にすべきポイントとは
対談メンバーの紹介
○ 司会
佐々木 多門
(クセジュ代表)
○ 話者
松岡 優太朗
(クセジュ中1学年責任者)
土肥 槙太郎
(クセジュ中2学年責任者)
中村 健児
(クセジュ中3学年責任者 )
▶︎ 2021年度入試を振り返る-入試問題の変化とその背景にあるもの
佐々木:本日はクセジュ学年責任者に集まっていただき、最新の高校入試の特徴と、中学生の学力を大きく伸ばしていくポイント、子供の周りの大人の在り方など、皆さんの考えをざっくばらんに聞きたいと思います。まず、昨年度入試はコロナ渦での入試となりました。学年責任者の中村先生も大変だったのではないでしょうか。
中村 : なんとか無事終えることができたという印象です。
佐々木:当初は大変でしたよね。一学期は全授業をオンラインに切り替えましたし、夏期講習の日程も変更し、全てを一から作り直しましたからね。
中村 : 受験学年の大事なスタートが、学校も休校になり塾もオンラインになったわけですから、生徒たちも不安と戸惑いがあったはずです。ただ、その後の子供たちの適応力には感心しました。最終的にはオンライン授業を通じて主体的に学ぶ姿勢を身につけ、むしろ例年よりもたくましく入試を突破してくれました。
松岡 : オンライン授業の方が、意外と生徒からの発言や質問も多かったですよね。教室で直接質問するより、チャット機能の方が手軽なのですかね。
中村 : 結局、5教室の選抜者が集う最難関のアドヴァンストクラスは、この一年間ほぼずっとオンラインのまま授業を行いました。ふたを開けてみれば、開成や筑波大附属を始め例年以上の合格実績でした。子供にとってみればパソコンやタブレットなどは、大人が思う以上に慣れ親しんだ「体の一部」なのかも知れません。課題の提示や質問受付、添削も違和感なく全てデータでやりとりしていましたからね。
土肥 : 確かにそれは感じます。保護者面談もオンラインになりましたが、画面上で操作に悩む保護者の方の後ろであれこれ操作法を教えている子供の姿なども昨年は良く見られました(笑)。
佐々木:さて、昨年から千葉県公立入試が1回入試になりました。こういった変化も含めて最近の高校入試の特徴を教えてもらえますか?
中村 : 1回入試でも難関県立では依然倍率は高く、熾烈な争いは変わりませんでした。難関校志望者は「是が非とも県立進学」というより、私立公立問わず難関校を受験しているという印象です。
松岡 : 日程的に、都内の私立や国立と県立高校をどちらも受験できるようになりましたからね。機会が増えた分チャレンジする人も増えたということでしょう。
中村 : 一方、人気校とそうでない学校の二極化が鮮明になりました。県立高校で言えば船橋や東葛飾の人気は言うまでもなく、さらに小金高校もここ数年でかなり人気が出ています。当然それに伴い偏差値も上がっています。
佐々木:入試問題傾向などに変化はありますか?
中村 : ここ数年で難関校を中心に、「その場で試行錯誤して考える問題」と「自分の考えを記述する問題」の割合が圧倒的に増えています。
佐々木:具体的に言うとどういうことでしょうか?
中村 : これまでは問題集でパターン練習をしていれば対応できる問題も多くありました。しかし、ここ5年ほどでだいぶ入試問題も工夫されたものになっています。一見するとはじめて見るような問題になっており、試行錯誤する中で出題者の意図をつかむ問題が増えているのです。
土肥 : いわゆる読解力が求められるわけですね?
中村 : 読解力というと国語の試験で問われる力のように感じるかもしれませんが、数学や社会の試験でも、まずは出題者の意図をつかむ力が要求されるのです。
松岡 : このような問題傾向が続くといくら計算力や処理能力が高くても、その力を発揮できないまま終わる受験生もいるかもしれませんね。一方、「自分の考えを記述する問題」では読解力だけでなく、記述力も必要ですよね。
中村 : 一番わかりやすい例は、東葛飾高校の作文でしょう。東葛では昔から一貫して作文を課していますが、600字の中にいかに「自分ならではの着眼点で論じるか」を問うてきます。
土肥 : 私の高校入試時代もありました。確かあの時は「包む」というお題でした。問題がシンプル過ぎて逆に何を書こうか悩んだのを覚えています。
中村 : ちなみに今年は「思考と行動」でした。ここで求められるのは、多くの人が考える一般論ではなく、自分の体験や視点から出てくる「独自の意見・考え」です。いくら体裁を整えても、ありきたりな優等生の意見では全く評価されません。
松岡 : 東葛の作文は配点が高く60点もありましたよね?クセジュ生同士でも、5教科の学科試験の得点と合否とで逆転現象が起きていましたからね。これは間違いなく作文の点数によるものです。
中村 : このような「パターン暗記」では対応できない問題は一部の難関校に限った話ではなく、県立一般入試の問題でも徐々にその割合を増やしています。
佐々木:入試問題が変わって来ている背景には、「大学入試制度改革」があります。詳細は長くなるので割愛しますが、文科省も「これからの社会で求められる学力」が時代とともに変化しているのを敏感に感じているのでしょう。
▶︎ 差を生むのは能力ではなく、基本的な技術と勉強に対する価値観である
佐々木:新しい傾向の入試問題で力を発揮できる生徒の特徴などはありますか?
中村 : ひとことで言えば、「自立している生徒」です。
佐々木:当事者意識を持って受験に取り組む、つまり大人であるということですね。答えは単純ですが、自立を促すのは一筋縄では行かないですよね。
中村 : クセジュでは単に受験テクニックを伝えるだけでなく、生徒が主体的に受験に臨めるよう働きかけることを講師は意識しています。
松岡 : これは受験学年だけではありません。例えば中1では「授業の効果的な受け方」や「学校との上手な両立法」と言った、日々の勉強を主体的に取り組めるようになるような働きかけをしています。
佐々木:それは『クセジュ流AL(アクティブラーニング)型学習法』のことですね。
松岡 : そうです。中1だと多くの生徒がやる気は高いのですが、思いのほか「基本的な学習法」が身に付いていない生徒が多くいます。
土肥 : 中2になるとそれが圧倒的な成績の差となって表れます。子供たちはそれを「能力の差」だと勘違いしているケースも多く見られます。誰でも身に付けられる習慣やスキルの差なのにも関わらず。
松岡 : これは本来小学生のうちに身に付けておきたいスキルです。ただ、この10年で勉強法の定着度にだいぶ個人差が出てきたと感じています。
佐々木:それは中学受験をする生徒の増加が大きな要因でしょう。かつては小学校である程度画一的な指導をしていても、子供たちの状況も似通っていたので全体として一定の成果が上がりました。しかし、現在は同じクラスでも、早くから塾へ通い沢山の知識を持った生徒と、学校で初めて学ぶ生徒が混在した状況です。学校の先生もどこに合わせれば良いのか、かつてと比べるとかなり難しくなっているはずです。
松岡 : 塾へ通っている生徒に漢字の覚え方など基本的な勉強を指導しても、すでに塾で沢山練習しているでしょうからね。聞く耳を持ってくれないでしょう。一方で、初めて学ぶ生徒にとってみればじっくりと教えて欲しいでしょうしね。
土肥 : 学力以前の、学力を身に付ける術の差が中学入学前に大きく開くわけですから、そのまま三年間過ごしていく中で完全に学力は二極化してしまいますね。
中村 : ここで勘違いして欲しくない点があります。ここまでの話だと「早くから塾へ入らなければ手遅れになってしまう」と感じる人もいるかもしれません。早めに基本的な学習法を身に付けるのはもちろん良いことですが、一方で手遅れということも全くありません。実際クセジュでは中2,中3からも入塾する生徒が沢山います。入塾後それぞれの段階に合わせた学習法の指導をする中でしっかりと力をつけ志望校に合格してくれています。
佐々木:大切なのは単純にスタートする時期というわけではないということですね?
中村 : 基本的な学習法などの技術は、正しい手順を伝えることで最終的には誰でも身に付けることができます。しかし、それで勉強法が完璧になるわけではありません。基本的な学習法を身に付けた上で、そこからより効果的な方法を常に模索し続けることが大切なのです。
佐々木:自分にとって最も効果的な学習法を考えること自体がまさに勉強と言うわけですね。
中村 : その通りです。確かに中学受験に向けた塾などで沢山問題を解き、訓練を積むことで初動は良くなることは間違いありません。しかし、それは自ら発見した学習法ではなく、所詮は塾の先生がいたからこそ可能となる勉強です。中学入学後にさらに自ら学習法を磨いていけるか、こちらの方が圧倒的に重要になります。
土肥 : クセジュのAL型学習法がゴールとしているのは、「他者に依存するのではなく自ら学力を持続的に高めていける学習法」です。なので、スタート時点のスキルが絶対的なのではなく、そこからどう向上させていくかがポイントとなるのです。
中村 : さらに言うならば、学習法以上にもっと大きな差を生むものがあります。
佐々木:中村先生、それは一体何でしょうか?
中村 : 「勉強を楽しむ姿勢」これが最も重要だと思います。先ほどまで話していた学習法は、結局のところ技術です。正しい手順を踏めば遅かれ早かれ身に付けることは可能です。一方、「勉強を楽しむ姿勢」については、方法ではなく捉え方や価値観の話です。一朝一夕では身に付きません。「勉強を楽しむ」ということは「勉強を学問として捉える」ことであると考えます。
松岡 : クセジュ講師が一番力を入れているのはまさにこの部分ですよね。私が教えている国語科では、開校以来伝統的に一カ月間じっくりと時間をかけ、一冊の本を深く読み込むという授業を行っています。多感な中学生に読んで欲しい文章、更には古今東西人間が問い続けてきた普遍的なテーマについて考えさせてくれるような文献を選んでいます。
土肥 : 理系の授業も同様です。単に問題の解き方を教えるだけではなく、「何故その問題を学ぶ必要があるのか?」にスポットを当て、一つの定理や公式の背景にある数学の歴史や数学者のエピソードなどに触れていきます。たった一問からこれだけの世界が広がると言う経験は、自然と教科の枠を超えた柔軟な思考に結び付いていくからです。
中村 : 中3では当然入試合格を目指し問題練習を積みますが、だからと言って「学問の魅力」を伝えることはベースに存在します。私は例年中3最難関クラスを担当していますが、このクラスの生徒は例外なく、先生が授業中に時々話をする背景や関連知識にこそ強く興味を示してくれます。
佐々木:私もそれは強く感じます。昨年の夏の特訓でも、授業後に理科の化学についての問題から発展して、量子力学にまつわる質問までしてくる生徒がいました。こういった生徒にはついつい私も時間を忘れてアツく語ってしまいます。
中村 : 彼は当然のごとく超難関校をはじめ、全勝で受験を終えましたね。
土肥 : テストで点数をとるための勉強も大切ですが、クセジュの生徒を見る限り最後に点数をとる生徒は、皮肉なことに「点数に囚われない価値観を勉強に見出している人物」です。
中村 : クセジュでは授業の中で、問題の解法だけでなくその背景や、時に受験に直結しない高校やその先で学ぶ類の話をすることがあります。こういった話を楽しめる余裕こそ、大きく伸びるポイントだと思います。
佐々木:実際、高校受験で勉強が終わるわけではありません。むしろ高校入学後から本格的な学びがスタートします。さらに、大学受験では勉強法などスキルの差に加えて、「勉強についての価値観」の差がそのまま学力の差となって表れますからね。
土肥 : 中2では毎年二学期に、「クセジュ卒業生による職業紹介」を行っています。自分の将来を考えることで、受験学年に上がる前に当事者意識を持って欲しいという意図もあります。しかし、それよりも社会で働く先輩たちの生の声を聞くことで、学ぶことの価値観を伝えたいのです。受験がゴールではなくスタートであり、生涯学び続けることへのワクワクを感じて欲しいと思っています。
- NEXT : ▶︎ 中学生を見守る親の上手な関り方・周りの大人の在り方